【中国経済を読み解く】経済政策で儲けた人々とは?
小学校~高校時代に歴史(社会)の授業で習ったから、なんとなく単語だけ知ってる。
けどその具体的な内容とか背景は説明できない…そういうことって多くないですか?
ぼくはそういうのばっかりなので、興味あるところだけでも学んでおこうと思って本を借りてきました。
その本がこちら。
(目次は上記リンクからKindleの無料サンプルで閲覧可能)
で、まあせっかく読んだので、感想とかいろいろメモしておきます。
本書の概要
まずはこの本の概要をば。
まえがきの引用になりますが、下記のような感じです。
中国経済の仕組みが西側とは大きく異なることや、移行経済の過程で中国がたどってきた道のりを理解すれば、中国の直面する問題や、それに対して中国政府や共産党が採っている政策もよりよく分かるであろう。
(室井秀太朗「中国経済を読み解く」, p. iii)
ざっくりいうと、「表面的な部分だけじゃなく、その背景をきちんと理解すれば中国経済は面白いんだよ」みたいな。
その言葉通り、本書では淡々と出来事を連ねるのでなく、歴史やその背景を一連のストーリーとして紹介してくれます。
流し読みした印象は、難しい式とか表もなくてとっつきやすそうな本。
一つ一つの節が短く、スキマ時間に少しずつ読み進められる点もGOODです。
著者は現在日本経済研究センター主任研究員ですが、以前は日本経済新聞社に勤め、87~90年を北京、上海の駐在記者として過ごしていました。
そのため、当時の様子についての記載が随所に見られ、歴史的背景が現代へどう繋がっているのかを知る助けになりそうです。
経済政策で儲けた人々
さて、ここからは個人的に面白かった部分を感想など交えて紹介します。
このエントリーのタイトルにもありますが、ぼくが読んでいて興味を持ったのは「経済政策で儲けた人々」についてでした。
先に述べたように、この本は中国経済の大きな歴史の流れや背景について書かれた本です。
でも、どうやらぼくは特定の「人」に焦点を当てた話のほうが好きだったみたいです。
ままならないですね。
以下では、本書で触れられた①経済政策を利用して意図的に儲けた人、②経済政策の影響でたまたま儲かった人について紹介します。
① 権力を悪用して儲けた「官倒」(「第1章 競争すれば豊かになる」より)
このような、…値段の違いで稼ぐ「運び屋」は個人でも出来る仕事であった。こうした「転売」をもっと大規模にしている人たちもいた。それは中国語で「官倒」と呼ばれる官僚ブローカーであった。
(同・p. 9)
官僚ブローカーって単語かっこいい…かっこよくない?
まあここでは悪い意味ですがね!
一時期、中国ではモノの値段を決めるための軸が2つ(市場価格と計画価格)ある状態だったそうです。
そして、品不足のために市場価格が常に計画価格よりも高くなっていました(モノによっては2倍以上!!)。
そんな中流行ったのが転売。計画価格で商品を買って、市場価格で売るだけで利益が出るおいしい手法です。
特に「官倒(カンタオ)」は権力にものを言わせて個人ではできないようなスケールの転売をしていました。
本書によると、石炭を積んだ貨車ごと転売…なんて事例もあったのだとか。
デカイことをやっていたようですし、かなり儲かったと思います。
ただ、この官倒への不満や、職に就けない若者(待職青年)、また、インフレが相互に絡み合った結果、天安門事件が起こったと本書では述べられています。
転売と権力の関係について
さて、この「官倒」についてもう少しだけ詳しく見てみたいと思います。
本書によると、官倒は「権力」権力にものを言わせて転売で荒稼ぎしていた、という話でした。
この「権力」というのは、転売にどう関係していたのでしょうか?
調べる中で、「官倒」について書かれたページを発見しました(下記)。
これによると、転売を行うためには「割り当て物資の販売許可」が必要だったみたいです。
権力やコネがなければその許可を得ることができず、転売もできず…ということですね。
また、ここでは次のような記載があります。
1980年代中期から後期の「官倒」現象の本質は、「レントシーキング」によって説明することができる。
(RIETI - なぜ中国で腐敗が蔓延するのか(前編)より引用)
レントシーキングとは、すごくざっくり説明すると、
レント(供給が少ないことなどが原因となって想定以上に生まれる利益)を官僚への賄賂などによって得ようとする活動のことです。
当時の中国におけるレントは、市場価格と計画価格の2つが同時に存在していたために発生しました。
で、物資の転売に必要な許可を入手するために人々は「官僚への賄賂」をするわけです。
要するに、「官倒」達は実際に割り当てた物資を自ら購入し、それを市場に売り出す必要はなかった。
「官倒」達はただひたすらに各種の割当指令、役所の書類、言い換えれば権力の証明文書を「転売」するだけでよかったのである。
(RIETI - なぜ中国で腐敗が蔓延するのか(前編)より引用)
なるほど、官倒たちは物資の転売ではなく「権力」そのものを売ることによって利益を得ていたのですね。
良い行いとは言えませんが、確かにこれは官僚でなければできない芸当です。
本記事では説明を省きますが、官倒の活動は権利書の転売で利益を出せなくなった以降も続きます。
官倒の更なる活動について知りたい方は、参考元ページをご覧ください。
② "灰色収入"を得られる大学教授(「第2章 格差を置き去りにした成長」より)
中国の上場企業は、企業統治(コーポレートガバナンス)を強化する目的から、社外取締役の設置を義務付けられている。しかし、社外取締役といっても、日本や欧米のように会社経営を経験した人材があちこちにいるわけではなく、簡単には見つけられない。そこで、手っ取り早いのが、大学教授に社外取締役に就任してもらうことである。
(室井秀太朗「中国経済を読み解く」, p. 33)
経済政策の影響で儲かった人、お次は「大学教授」です。
といっても、これは経済政策を利用したというよりむしろ棚ぼた的な話ですね。
そういう意味では先ほどの官倒とは少し違います。
じゃあそもそも、なんで上場企業に取締役会を設置することが義務付けられたのでしょうか。
これについては以下の論文で言及があります。
この中で、制度を導入するに至った背景として以下の2点が挙げられていました。
- 経営者がやりたい放題やった(粉飾決算など)
- 支配株主(下記リンク参照)がやりたい放題やった(身勝手な資金の流用など)
これらに共通するのは、企業をきちんと監督して悪事を咎める人がいなかったということ。
じゃあそういうことができる人を設置しよう!ってことで、社外取締役制度ができたみたいです。
ただ、中国経済を読み解くでは、実情として会議に出たりとかはほとんどなくて、名前だけ貸す形のようです。
形骸化してない?大丈夫??
でもお金はけっこう貰えるらしく。しかもこの収入については課税を免れるとか。
今後は会社経営の経験を持ったおじさん、おばさんも増えていくでしょうし、大学教授がうまみを感じられるのは今だけかもですね。
日本における「社外取締役」
中国では社外取締役に大学教授が多い、という話でしたね。
では、日本においてはどんな背景を持った人が社外取締役を務めているのでしょうか?
それを知るためにも、まずは日本における社外取締役の立ち位置をちょっとだけマジメに見てみましょう。
要約すると、
- 社外取締役とは、 文字通り社外の立場からその会社を支援する権限を持つ人
- 第三者としての独立性、 透明性を保つために関係者の就任は禁止
- アドバイサー的な役割が期待される
- 原則として社内取締役と同じ権限を行使し責任を負う
第三者を取締役会に招くことで、企業に対してクリーンなイメージを持ってもらうとともに、実務においてもその知見・経験を活かして貢献してもらう人、といった感じでしょうか?
一概には言えないと思いますが、完全なお飾りというわけではない様子。
なんとなくわかったつもりになったところで、日本において社外取締役を務める人たちの背景を見てみましょう。
デロイト トーマツ コンサルティングの記事でその内訳が紹介されています(図表5)。
引用元:これからの社外取締役の選任・処遇の在り方(1)|サービス:人事・組織コンサルティング|デロイト トーマツ グループ|Deloitte
(また、上記事内の「図表6 社外取締役を巡る現状の課題と求められる対応」もわかりやすくまとまっているので概観を掴むのにオススメです。)
ここでは日米を比較していますが、日本はアメリカに比べて"弁護士等の法曹関係者や、大学教授等の学者からの採用が多い"(上記事)と述べられています。
この原因は企業出身の人材が少ないためだそうで、複数の企業の社外取締役を兼任されている方も多いようです。
例えば、下記リンクから2016年のNEC(日本電気)の社外役員の選任理由・出席状況を確認できます。
社外役員の選任理由・出席状況(2020年度): 役員 | NEC
それぞれの社外役員について、重要な兼職の状況という欄を見ると、ほかにも複数の企業で相談役や社外取締役を請け負っている人が多いのがわかると思います。
全体の感想
知らないことが多い分、発見や疑問点も多く楽しんで読めました。
流し読みとはいえ、最後まで読めたのは本書の書き方が丁寧でわかりやすかったおかげだと思います。
著者の期待したテーマを受け止められた気はしませんが、まあ楽しみ方は人それぞれということで。
官倒のくだりを読んでいた時は、どういう状況でもうまく立ち回ってお金を稼ぐ人はいるんだなぁと関心しました。
大学教授の副業については、これが肩書の力…!!って感じですね。
以上。おわり。